文学 / ジョナサン・スウィフトフランシス・ハリスの請願Mrs. Frances Harris's Petition, 1699

『フランシス・ハリスの請願』の装画。空の財布と請願書を掲げる使用人。

文学 / ジョナサン・スウィフト

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原著・底本

原題
Mrs. Frances Harris's Petition, 1699
著者
ジョナサン・スウィフト
編者
ウィリアム・アーンスト・ブラウニング
編者
ジョージ・フォークナー
原典の利用条件
パブリックドメイン(米国)
Project Gutenberg 利用条件
収録範囲
1910年Browning編版の題と1699年記、底本編者の紹介、請願詩の全文と底本注十四件。

日本語訳

利用条件
CC0 1.0
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表紙

装画
日本人文
利用条件
CC0 1.0

本書のために制作した独自装画。原刊の装丁とは異なります。

追加日: 2026-10-21 / 更新日: 2026-10-21

1910年Browning編版の題と1699年記、底本編者の紹介、請願詩の全文と底本注十四件。

フランシス・ハリスの請願、一六九九年

底本編者の紹介

英語で書かれた社交詩のうち、最もユーモアに富むこの作品は、当時、身分の高い家における牧師の立場を、よく示している。――W・E・B。

請願本文

アイルランド総督代理閣下お二方[1]へ、
フランシス・ハリスの慎ましき請願。
これがしくじれば、飢え死にして、嫁にも行けぬまま世を去る身でございます。
恐れながら申し上げます、私は、ベティ様[2]のお部屋へ、暖まりにまいりました、
寒かったものですから。
そのとき財布には、七ポンド四シリング六ペンス、
(ファージング銅貨は別に)、小銭と金貨で入っておりました。
それで、昨晩は奥様のお買物をしていたものですから、
お金を数えて、ちゃんと合っているか、確かめようと思ったのでございます。
お聞きくださいな、私の長持ちの錠前は、ひどく具合が悪いので、
私のお金は全部――神様もご存じの、ほんのわずかな蓄えですが――、
肌着のすぐ上で、腰に結びつけたポケットに入れておくのでございます。
それで、財布をしまおうとしたとき、何の因果か、肌着の縫い目が、
ほつれておりまして、
ポケットへ入らず、そのまま下へ、すべり落ちたのでございます。
そこへ呼び鈴が鳴り、私は、奥様をお寝かせするため、階下へまいりました。
神様もご存じのとおり、お金は、私の操と同じほど無事だと、思っておりました。
ところが、戻ってまいりますと、ポケットが、とても軽いのでございます。
探ってみて、財布がないと分かったときは、まあ、私は、その場で、
へたり込んでしまうかと思いました。
「まあ、どうなさいましたの。」とメアリー。「本当に、」と私、「こんなに困ったことはないわ。
ねえ、メアリー、私のお財布、どうしたか、知らないかしら。」
「とんでもない。」とメアリー、「私は、ここから一歩も動いていませんよ。」
「いいえ、ベティ様のお部屋では、ちゃんと持っていたのよ、それは確かだわ。」と私。
それで、メアリーは私を寝床に入れ、暖かく掛け物をしてくれましたが、
私が自分を傷つけないようにと、靴下留めを、こっそり持ち去りました。
お察しのとおり、私は、一晩じゅう、寝返りばかり打って、
ほとんど目も閉じず、まんじりともしませんでした。
それで夢を見ましたの、あたりの人たちの持ち物を、私が調べてまわりますと、
デュークさん[3]の箱の隅に、ぼろに包まれたお金が、
見つかったのでございます。
そこで翌朝、ウィトル[4]に話しましたら、あの人は、ひどく悪態をつきまして、
そこへ、ワドガー婆さん[5]がまいりました、あの方は、ご存じのとおり、耳が遠いのです。
「婆さん、私が、どんな損をしたか、
知っているかい。」と、私は、ありったけの大声で叫びました。
「いえね、」と婆さん、「コルウェイ卿[6]のお屋敷の皆さんは、たいそう悲しんでいるよ。
ドロメダリー卿[7]が、火曜日に、きっとおいでになるからね。」
「もう、私が困っているのは、そんなことじゃないのよ。」と私。
するとケアリー[8]が、「わしは、この春で、召使いをして、
二十五年になるが、
どのお屋敷にいたときも、こんなことは聞いたためしがない。」と言います。
「いや、」と執事[9]、「私がシュルーズベリー卿の、
お屋敷にいたころ、
こんなことがあったな、ちょうど、スグリの実るころだった。」
そこで私は、疑われている人のところへ行きましたら、しきりに悲しんでおりました。
(お聞きくださいな、私は、何よりも、泥棒というものが大嫌いなのでございます。)
それでも、それとなく、その話へ持っていこうと決めまして、
「デュークさん、困ったことが起きましたねえ、」と申しました。
「お金なんて、シラミが三跳ねするほども、惜しくはないんですけれどね。[10]
私が気にするのは、お屋敷の信用なのですよ。
確かに、七ポンド四シリング六ペンスは、私のお給金には、
大きな穴をあけますけれど、
それに、いまどきの奉公は、相続できる財産ではない、と言いますでしょう。
ねえ、デュークさん、あなたもご存じですし、誰だって分かっていますわね、
誰の仕業かは決めかねても、お金は、誰かの手なしには、なくならないということを。」
「悪魔にさらわれてもいいよ、」とあの人は(神様のお守りを祈りながら)、「私が一度でも、それを見たというんならね。」
そして、私が、散々にののしったかのように、気違いじみた大声を上げました。
それでは、ご存じのとおり、もう何が言えましょう。
私は、さっさとあの人から離れ、何も分からぬまま、引き揚げました。
そうしましたら、今度は皆が、占い師のところへ行けと言うのでございます。
「いいえ、同じことですよ、もうすぐ、お抱え牧師様[11]がいらっしゃるわ。」と私。
それで、お抱え牧師様がおいでになりました。召使いたちは、あの方が、私の恋人だと言いますの、
いつも私の部屋にいらっしゃいますし、私も、いつも、あの方の味方をするものですから。
ところが、悪魔のいたずらで、私は、ついうっかり、口を滑らせました。
「牧師さん、盗まれた人の、生まれ星を占うことは、できますか。」
(お聞きくださいな、あの方は、「牧師さん」と呼ばれるのを、死ぬほどお嫌いなのです。)
「まったく、ナブさん、もう少し礼儀正しくしてもよいでしょう、」と、あの方。
「お金がなくなったのなら、ある学識高い神学者の言葉どおり[12]、よろしいか、
あなたは、私が取り上げる説教の題ではないのです、そう覚えておきなさい。
私は、これまで、魔法使いと思われたことなど、一度もないのですよ。」
「まあ、怒らないでくださいな、そんなことは、決して思ったことはありませんわ。
私が聖職を敬っているのは、ご存じでしょう、牧師の奥さんになるつもりですもの。
あなたと同じ服を着たお方を、魔法使いだと思ったことは、生まれて一度もございません。」
すると、あの方は、私に向かって、腰ひもを縄のようによじって見せました、まるで、
「首でも吊るがいい、私は知らん。」と言うようにして、そのまま行ってしまわれました。
さて、私は、気を失いそうでした。「まあ、どうしたらいいのかしら。
お金をなくしたうえに、大事な恋人まで、失くしてしまうわ。」
そこへ、ご主人様がお呼びになり、「ハリー[13]、泣くんじゃない、
損の埋め合わせに、少し、やろう。」とおっしゃいました。「では、私も、」と奥様が、
おっしゃいました。
でも、私は申しました、「お抱え牧師様が、それでも、承知してくださらなかったら、どうしましょう。」
そのことなら、閣下方には恐れ入りますが、お二方に請願を出せと、ご主人様がおっしゃったのでございます。
以上の事情を、どうか、あわれとお考えになり、閣下方の、
お庇護を賜りたく、
また、今度の日曜の献金を、私にも、お分けいただきたく存じます。
そのうえ、さらに、閣下方のお手紙を、賜りまして、
前述のお抱え牧師様か、その代わりに、もっとよいお方を、私にお与えになるよう、お命じいただきたく存じます。
そうすれば、貧しい願い人である私は、夜も昼も、
あるいは、お抱え牧師様が(それが、お仕事ですから[14])、務めとして、いつまでも、
お祈り申し上げます。

底本注

編者注 1

[1] バークリー伯爵とゴールウェイ伯爵。

編者注 2

[2] ベティ・バークリー嬢、のちのジャーメイン夫人。

編者注 3

[3] 従僕の一人の妻。

編者注 4

[4] バークリー伯爵の身の回りの世話役。

編者注 5

[5] 耳の遠い、年取った女中頭。

編者注 6

[6] ゴールウェイ。

編者注 7

[7] ドロヘダ伯爵。首座大主教とともに、当時、アイルランド総督代理であった二人の伯爵の後任になることになっていた。

編者注 8

[8] 厨房係の書記。

編者注 9

[9] フェリス。この詩人は、一七一〇年十二月二十一日付『ステラへの日記』で、この人物を「けだもの」「ならず者の犬」と呼んでいる。『散文作品集』第二巻七九頁を参照。――W・E・B。

原注 10

[10] 彼女が、よく口にする言葉。――スウィフト。

編者注 11

[11] スウィフト。

編者注 12

[12] お抱え牧師の一人、ボルトン博士。――フォークナー。

編者注 13

[13] バークリー卿夫妻が、ハリスさんに使っていた、仲間うちの呼び名。

編者注 14

[14] スウィフトは、ほかの箇所でも、自分の聖職を稼業と呼んでいる。『ガリヴァー』序論に引用された、一七二五年九月二十九日付ポープ宛書簡を参照。『散文作品集』第八巻二五頁(ローマ数字)。――W・E・B。