文学 / ジョナサン・スウィフト今どきの淑女の日記The Journal of a Modern Lady
文学 / ジョナサン・スウィフト
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原著・底本
- 原題
- The Journal of a Modern Lady
- 著者
- ジョナサン・スウィフト
- 編者
- ウィリアム・アーンスト・ブラウニング
- 出典・参照
- 原典の利用条件
- パブリックドメイン(米国)
Project Gutenberg 利用条件 - 収録範囲
- 1910年Browning編版の題・副題と1728年記、掲載された詩の全293行。1729年刊本にもある省略表示と訳注一件を収録し、欠けた行は補っていない。
日本語訳
表紙
- 装画
- 日本人文
- 利用条件
- CC0 1.0
本書のために制作した独自装画。原刊の装丁とは異なります。
追加日: 2026-10-21 / 更新日: 2026-10-21
1910年Browning編版の題・副題と1728年記、掲載された詩の全293行。1729年刊本にもある省略表示と訳注一件を収録し、欠けた行は補っていない。
今どきの淑女の日記
ある身分の高い人への手紙として。一七二八年
あなた、それは、何と薄情な仕打ちであったろう。
私の心を知っているはずの、あなたともあろう人が、
すべての女性の幸せのために、
私がいかに熱を入れているか、よくご存じの人が。
どうして、そんなことを、思いつけたのか、
この世のあらゆる男のうちから、私を選んで、
女性に向けた風刺を書かせ、
女嫌いの烙印を、私に押そうとは。
私は、女性は誰もが、たいそう美しく、
ヴィーナスにも、寸分の差なく張り合うと思っている。
初めて、詩の弦を調べる術を覚えて以来、
その美徳を、絶えず歌ってきた、この私を。
淑女たちの叫ぶ声が、聞こえるようだ、
「あの方は、自分の評判を裏切るのかしら。
私たちの不幸は、いつまでたっても終わらないの。
ただ一人の味方まで、失ってしまったの。」
ああ、愛らしい乙女たち、心配はお捨てなさい。
その貴い涙を、もう流さないでほしい。
それより先に、何々が起ころう、云々。[ここで、数行の詩が省略されている。]
私が、美しい女性たちに背くよりは、
猟犬が、野兎に追われるほうが先であろう。初めに、書いてくれと私に頼んだのは、あなただった。
そして、意地悪にも、題材をお決めになった。
今どきの淑女の日記、
約束どおり、それを書けと、おっしゃるのだ。
一度口にした以上、従わねばなるまい。
だが、ひょっとすると、あなたのほうが一杯食うかもしれぬ。
私は、ただ写すだけ、風刺のうち、
一行たりとも、私のものにはならない。
あなたに強いられて、韻にくくるのは、
この時代の、ありふれた悪口、
今どきの世間の悪口なのだから、罪はあなたにある、
私は、潔白の身で、安全というわけだ。
気の進まぬ詩の女神よ、さあ、お前の歌を始めよ、
一人の女の、一日の記録を。生まれつき、放蕩者の役を、巧みに演じる性分の、
(この先で、お見せするように、)
今どきの奥様が起こされるのは、昼の十二時、
(それほど早くはない、という著者もいる。)
というのも、まことに不本意ながら、
一晩じゅう、カドリーユをして起きていたからだ。
伸びをし、あくびをし、貼りついた目をこじ開け、
もう起きる時間なの、と尋ねる。
頭痛と気鬱を訴えてから、
熱くなった頭を冷まそうと、
部屋着とスリッパを、持ってこさせ、
シトロン酒を、たっぷり一杯ひっかける。
それから鏡に向かう、「ねえ、ベティ、
今日の私、ひどい顔をしていないこと。
でも、まったく、ひどい仕打ちだったわね。
もう二度と、札なんかに手を触れるものですか。
マタドールが四枚もあって、コディーユ負けだなんて。
絶対に、もうやらないわ。
でも、トムのところへ、ひと走りして、
今夜、六時までに、奥様方をここへお呼びするよう、言ってちょうだい。」
「奥様、金細工師が、階下でお待ちでございます。
質にお預かりしている銀のカップを、
お請け出しになるかどうか、
お尋ねにまいったそうです。」「では、上へお通しなさい。」
「奥様の銀の化粧道具を、
十割の利息の代わりに頂ければ、よろしいそうです。
それから、奥様、スペード様が、
小間使いに、この手紙を持たせておいでです。」
「ええ、あの方の勝った分は、覚えているわ。
もう、こんなに早く、催促してきたの。
さあ、この十ピストール金貨を、下へ持っていって、
夫が、石炭代の支払いに残していったお金よ。
どれも目方が足りなくて、ありがたいわ、
今夜は、仕返しができるかもしれないし。」
さて、紅茶とクリームを、だらだら味わいながら、
いつもの話題に入っていく。
昨夜の不運を、繰り返しては、
スペード様を、百通りもの言い方で、いかさま師呼ばわりする。
「あの方、スパディリオを胸に隠したのよ、
それから、冗談で済ませようとしたの。
カットさんと、ぐるになっていて、
お互いに、合図を送り合うのよ。」
どの勝負のことも、一つ残らず話していく、
夕べのエールを飲みながら、獲物を語る猟師のように。さて、別の場面へ移ろう。
絹とレースを持った連中が登場する。
際限のないおしゃべりに、新たな種、
これは本物のインド絹、あれは本物のメヘレンのレース。
「こちらの柄を、ご覧ください、これぞ上物、
買い手には、事欠きませんよ。
まあ、奥様、ずいぶん、お値段に厳しくおなりで、
このレースは、一ヤード、十二ポンドの値打ちがございます。
奥様、人間の言葉に、誠というものがあるなら、
扇を、これほど安く売ったことは、一度もございません。」この大事な用事が済み、
四時には、奥様の身支度も、ほぼ整う。
従僕が、いつもの言い方で、
「奥様、お食事がお待ちしております。」と、上がってくる。
奥様も、いつもの調子で答える、
「料理人に、もうしばらく待たせるように言いなさい。
身支度をする時間が、ちっとも取れないわ、
私ほど時間をかけない女なんて、この世にいないのに。
こう急かされては、気分まで悪くなる、
食事なんか、悪魔にくれてやりたいわ。」
さて、食卓で、奥様は自分の役を演じ、
食事どきの決まり文句を、何一つ忘れずに披露する。
「今日は、二人だけで食事をすると思っていたわ、
あなた、だって、もしも、知っていたなら、
皆様が、今日いらっしゃると――
でも、本当に、うちの人は、いつもこうなのよ。
お友達をお招きになるときも、
知らせをよこしてくれない、薄情な人なの。
どうか、お料理が足りますように。」
こうした、くだらぬことばかりで、
座ったまま、客という客を苦しめ、
一瞬たりとも、舌を休ませない。
使い古され、陳腐で、ありきたりの言い回し、
それを、今どきの淑女は、上品だと称している。
見れば、間抜けな夫が、席について、
妻の機知に、感心しているではないか。さて、しばらく、眺めてみよう、
夕方のお茶を飲む、われらが奥様を。
貞淑ぶった女、媚を売る女、鬼婆ども、
騒々しい取り巻きに、囲まれている。
やかましい一団に、おびえた沈黙の神は、
飛んで逃げ去り、
美しい分別も、その場を去った、
慎みも、顔を赤らめながら。
そこへ、うぬぼれきった高慢が現れ、
いつも大口を開けている醜聞も来る。
険しい顔をした偽善、
冷やかし顔の下品な悪口、
いまにも、はじけそうな下卑た笑い、
いつでも、いちばん悪く取る悪意。
手鏡を持った虚栄と、
真鍮の面の皮を持つ厚かましさ。
わざとらしく気取った、虚飾も来た、
手足も顔つきも、一つ残らず、ゆがめながら。
そして、鉛の脳みそを持つ無知が、
女たち一人一人の頭上を、飛びまわっていた。なぜ、私の詩の女神よ、お前に、
詩人たちの常のように、百の舌を求めようか、
奥様方を、一人残らず、存分に描き出すには、
十万の舌でも、まだ足りないのだから。
それに、ああ、どうして私が語り尽くせよう、
あの愚かなおしゃべりの、何もかもを、
当てこすり、ほのめかし、陰口、
卑猥な含みや、二重の意味を持つ言葉を。
さて、いっせいに、醜聞の攻撃が始まる、
ある者がこしらえれば、ほかの者が話を膨らます。
そして、「奥様、もし嘘だったとしても、
私同様、あなたも、ただでお聞きになったお話ですからね。
誰に聞いたかは、伏せておかなければなりませんが、
もう、世間じゅうに知られていることですよ。」言ってみるがいい、大胆で、目の曇った、愚かな女たち、
どんな、たちの悪い心のねじれからなのか、
自分たちが、いちばん深くかかわる悪徳にこそ、
いちばん厳しく当たるのは。
こうして、どの愚か者も、自分で自分を欺く、
貞淑ぶる女は、不在の、貞淑ぶる女を責める。
夫を、臭さで殺さんばかりのモプサは、
クロイーの、臭う息を非難する。
汗臭いヒルキーナは、図々しくも、
フィリスが香水をつけるのを、とがめ立てする。
体のゆがんだシンシアは、せせら笑って言う、
フロリメルは、鉄のコルセットをつけていると。
どのしゃれ男のことでも、やきもちを焼くクロイーは、
娘たちは、よくも男と話などできるものだ、と驚き、
怒りに満ちて、いらだっている、
女たちが、あんなに色目を使うとは、と。
陰口好きで、名の知れたアイリスは、
「まあ、世間というのは、何て批判好きなの。」と叫ぶ。
鉛の櫛を使っているルーファは、
サッフォーの髪は赤い、とささやく。
一マイル先からでも、声の聞こえるオーラは、
沈黙のよさを、半日も、しゃべり立て、
腹に、やましさのいっぱい詰まったシルヴィアは、
アモレットを、とんだ浮気女呼ばわりする。いまや、声に声が重なり、
誰もが、いちばん大きな声を出そうと競う。
否定し、断言し、言い争い、
どの舌も、一瞬たりとも黙らない。
皆、しゃべることに夢中で、聞こうとする者はなく、
座敷犬まで、吠え出させる。
そのおしゃべりの騒々しさは、
ジンを一杯飲んだ魚売り女たちよりも、まだひどい。
教師を締め出す生徒たちでさえ、
これほど、とめどない騒ぎを立てたためしはない。
混沌の中で、ぶつかり合う物質の粒でさえ、
これほど、がたがたと音を立てなかった。
選挙用の酸っぱいエールに酔って、
群衆が上げる怒号や罵声も、はるかに及ばない。しかも、頼みとするのは、舌だけではない、
自分たち独自の言葉も、話すのだ。
うなずき、肩をすくめる仕草、目つきの意味を、
印刷された本より、はるかによく読み取り、
眉をひそめるだけで、中傷を伝え、
目くばせ一つで、人の評判を落とし、
あるいは、扇を、ひらりと動かすだけで、
あの奥様、あの男と、名指してみせる。だが、ご覧、女たちの集まりが解散する、
皆それぞれに、訪問先が、二十軒もあるのだ。
気の毒に、奥様は一人きりで座り、
気鬱と、ヒステリーの発作に苦しむ。
「今朝、トムを使いにやったはずでしょう。
きっと、行きはしなかったのよ、命を賭けてもいいわ。
六時を過ぎたのに、誰一人、来ないなんて。
いまごろは、ヴォールを勝ち取っていたかもしれないのに。」
気鬱に苦しむ、この恐ろしい合間、
この時間を、どうやって過ごせばよいのか。
「ねえ、ベティ、薬を飲ませてちょうだい、
それから、脈を取って、きっと止まっているわ。
まあ、頭が、ぐらぐらすること。
手足も、どこもかしこも、こんなに痛むのよ。」
「奥様、少し、お眠りになっては。」
と、そのとき、従僕が、戸をたたく音がする。
「さあ、走って、灯を持って、奥様方を上へお通しして。
夜食にするのは、一時になってからね。」テーブルに、札とチップが用意され、
賭博好きな奥様方が、皆、そろうと、
気鬱も発作も、すっかり治り、
われらが奥様は、一晩じゅう起きていられる。
「誰が来ても、留守だと言いなさい。」
合言葉は、カドリーユ、さあ、勝負の始まりだ。詩の女神が、どうして、助けの手を貸せよう、
遊びの術語を、何一つ知らないのに。
どうして、調べのよい韻律に収められよう、
札を配り、切り混ぜ、山を分ける、その手順を。
女の賭博師の頭を満たしている、
迷信じみた気まぐれを、どう語ればよいのか。
ジャックの足が、逆さになっているのを見て、
彼女の心は、どれほど苦しむことか。
札を一枚ずつ、引き上げていって、
その陰から、幸運が、のぞかないかと探る。
胸を高鳴らせ、目を凝らし、
スパディリオが現れることを、期待しながら。
だが、ああ、その期待は、むなしく膨らむばかり、
引き出したエースを見れば、それは赤い。
手元のチップで、支払うことは、決してせず、
嗅ぎ煙草入れや、指輪や、鍵を、質に置く。
絶えず、新しい思いつきにとらわれ、
運をよくしようと、二十もの、まじないを試す。
「今朝、牧師さんが来たとき、
今日は、一勝もできないわ、と言ったのよ。
この嫌な椅子、どうして、こんなものに座ってしまったの。
この椅子で、ついていたことなんて、なかった気がする。
コルセットが、ひどく苦しいわ、
扇を、ちょっと、貸していただけないこと。
もっと離れていなさい、そこの娘、それとも、あっちへお行き、
あなたが見ていると、私は、いつも負けるのよ。」
「まあ、奥様、コディーユ負けですわ、
こんなに、ひどい打ち方は、初めて見ました。」
「いいえ、奥様、言わせていただきますけれど、
勝負を台無しになさったのは、あなたですわ。
トリックシー様が、四を出したとき、
あなたは、マタドールでお取りになったでしょう。
あの奥様が、キングを指定する前に、
あなたが、結婚指輪に触ったのを、見ましたわ。
Hで始まる言葉を、おっしゃったでしょう、
誰に教えようとなさったか、分かっていましてよ、
ハートのキングを、お持ちでしたもの。
まあ、奥様、そんな小細工は、およしなさいな。」
「椅子をこすって、クラブのキングを呼び出し、
自分がマタドールを持っていると、
組のお相手に知らせる、
どなたかさんよりは、まだましですわ。」
「奥様、そう、ふくれるには及びませんわ、
同じマークの札を持つのに、出さぬ反則を、三度なさったのを、確かに見ましたから。」
「ええ、奥様、私も覚えていますわ、
五のところを、私に十と、おつけになりましたね。
このスパディリオには、印がついていますよ、
子供でも、暗闇で見分けられるほどのね。
その手のうちは、読めていましたわ、めったに外れませんから、
爪をお切りになるといい、どなたかさんが、いらっしゃいますわね。」こうして、ののしり、叱りつけ、わめき合っても、
ただ、いつもの作法で通ってしまう。
皆、自分たちの言っていることが真実で、
お互い、当然のことしか言われていないと、承知しているから、
それで、勝負が途切れることもなければ、
恥ずかしく思うこともない。いまや、時間は貴重で、無駄にはできず、
夜食を、大急ぎで、がつがつと平らげ、
また、札のところへ、駆け戻る、
まるで、たったいま、始めたばかりのように。
だが、どれほど、言い争い、唸り合い、いかさまをするか、
もう一度、繰り返すことはするまい。
ようやく、夜警の戸をたたく音が聞こえる、
「霜の降りた朝、四時を回りました。」
駕籠かきは、見つからない、
「さあ、もう一回り、勝負しましょうよ。」さて、皆、大慌てで、
頭巾と外套を、ひっかぶり、引き揚げていく。
ただし、まず、勝った人が、
明日の夜、この仲間を、招かなければならない。不運な奥様は、一人残って涙に暮れ、
(いままた、カドリーユは、二度としないと誓い、)
からっぽの財布と、痛む頭を抱えて、
眠っている夫のそばへ、そっと、寝床に潜り込む。
訳注
カドリーユは四人で行うカード遊び。マタドールは上位の切札、スパディリオはスペードのエースで、最上位の切札を指す。コディーユは規定の勝数に届かない負け方、ヴォールは全取りをいう。作中で責められるrenounceは、同じマークの札を持つのに、出す義務に背く不正を指す。